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和歌山IR、拭えなかった不信感 自民議員も相次ぎ造反 - 産経ニュース

IR整備計画案が和歌山県議会に否決され、うなだれる仁坂吉伸知事=20日午後、和歌山市(藤崎真生撮影)

カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致レースで、当初から名乗りを上げていた和歌山県の整備計画案は20日、県議会で否決され、事実上頓挫した。新型コロナウイルス禍で観光戦略に狂いが生じ、唯一残った事業者も資金調達のめどを明確に示せなかった。「不信感が拭えない」と推進派だった自民議員からも反対が続出。仁坂吉伸知事は「痛恨の極み」と唇をかんだ。

同日午後、県議会本会議で行われた無記名投票による採決。結果は賛成18に対し、反対が22と多数を占めた。当初から反対を表明していた共産以外は党議拘束をかけておらず、議長を除いても26人の議員を擁する最大会派の自民からは、少なくとも8人が反対に回った計算になる。

反対票を投じた玄素彰人(げんそ・あきひと)議員(自民)は「事業者の不誠実な対応が続き、最後まで不安が解消されなかった」と述べ、藤山将材(まさき)議員(同)も「今の提案内容では、とても国の審査には耐えられない。今は『勇気ある撤退』をすべきだと判断した」と明かした。

広がる慎重論

議員が不信感を募らせた最大の要因は、事業者である「クレアベスト・グループ」(カナダ)が最後まで納得いく資金調達のスキームを示せなかったことだ。

計画では、初期投資額約4700億円の7割を、金融大手クレディ・スイスを中心とする銀行団から借り入れるとされたが、クレアベストの日本法人と県は、議会側の再三の要請にもかかわらず融資確約書を提示せず、出資企業の全容も明らかにしなかった。

IRはもともと、自民の安倍晋三政権下で成長戦略の柱に据えられたもの。訪日外国人(インバウンド)を呼び込む起爆剤と位置付けられ、当時官房長官だった菅義偉(すがよしひで)前首相が旗振り役を務めた。IR実現に必要な規制改革を進めるとともに、ギャンブル依存症対策基本法や、整備区域の選定方法などを定めたIR実施法の成立に道筋をつけた。

しかし菅氏のおひざ元として誘致レースに参戦していた横浜市は、昨年8月の市長選で反対派が当選し、誘致を撤回した。

菅氏も首相を退任し、その後政権の座に就いた岸田文雄首相はIRを推進する立場を踏襲してはいるものの、安倍、菅両氏と比べるとトーンダウンの印象は否めない。

推進派の重鎮たちが表舞台を去り、コロナで遠ざかったインバウンドの回復がまったく見通せない中で、IR慎重論が優勢となる素地はできあがっていた。

推進派も苦言

和歌山の事業者公募にはクレアベストのほかに「サンシティ・グループ」(マカオ)が応募。当初はサンシティが本命とみられていたが、同社がIRを手掛けるオーストラリアで資金洗浄の疑惑が浮上。サンシティは関与を否定したが、昨年5月、コロナ禍などを理由に和歌山IRからは撤退した。

県は同7月、残るクレアベストを事業者に選んだが、その際公表された有識者による提案内容の審査では、クレアベストが千点満点中で656点だったのに対し、サンシティは720点。13の審査項目別にみても、10項目でサンシティの提案が勝っていた。

クレアベストに向けられる視線は厳しくなり、同11月の県議会特別委員会では資金計画に対する疑問が噴出。推進派の議員からも「とても県民に説明できない」と苦言を呈され、県は手続きの先送りを余儀なくされていた。

平成18年12月の知事就任以来、IRを重要政策に掲げてきた仁坂氏は、県議会で計画案が否決された瞬間、目をつむってうなだれた。閉会後、報道陣に対し「和歌山の最大の起爆剤にしようと頑張ってきたが、痛恨の極み。プロジェクトを成功させる責任は私にあるが、その責任を取らせてもらえなくなったのが一番残念だ」と述べた。

大阪は「影響なし」

和歌山県議会でIR整備計画案が否決されたことについて、大阪IRの誘致を進めてきた松井一郎大阪市長(日本維新の会代表)は「国への申請条件が整っていないという議会の判断。大阪IRに大きな影響はない」と述べた。

和歌山IRで焦点となったのは資金計画。大阪IRでは、米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナル日本法人とオリックスを中核とする「大阪IR株式会社」が約1兆800億円を投資するとしている。

このうち約5300億円の8割をMGMとオリックスで負担し、2割を地元企業など計20社が出資。残り約5500億円を三菱UFJ銀行と三井住友銀行から借り入れる計画で、両行から融資確約書を得ている。大阪府市の担当者は「確実な資金調達の裏付けがある」と強調する。

ただ府市が事業者側と締結した基本協定には、国内外の観光需要が新型コロナウイルス禍前の水準まで回復しないような場合、事業者側が協定を解除できるとの条項が盛り込まれ、不安要素は残る。

また大阪市議会では、自民市議団が誘致候補地とされる人工島・夢洲(ゆめしま)の土壌対策に絡み、市側が約790億円を追加負担することを問題視し、整備計画の採決で反対した。ある自民市議は「和歌山県議会は正当な判断をした」として、大阪IRについて「負担額はさらに膨れ上がるリスクもある。誰が責任を持つのか」と批判した。

専門家は

阪南大・桜田照雄教授(経営財務論)の話 「IR実施法は高い国際競争力を求めているが、今回の計画は資金面で不透明さが残るなど趣旨にそぐわない内容だった。賭博が原則違法とされる中、カジノを正当化するだけの根拠が十分にない状況で、誘致を進めるべきではないという、極めて妥当で良識的な結論といえる。和歌山の計画の頓挫は、IR実施法自体が持つ問題点を浮き彫りにした。大阪などを含め、もう一度、カジノ全体をどうするべきか根本的に問い直すことが求められている」

近畿大・高橋一夫教授(観光マーケティング)の話 「『IR=カジノ』というイメージで反対する人もいるだろう。日本では、カジノの床面積はIR全体の3%以下に規制されるなど、厳しいルールがある。誘致を目指す大阪や長崎は、正確な情報を国民に伝えてほしい。日本のIRには、観光客を周囲に輸送する『送客施設』が置かれることになっている。コロナ禍で観光業は疲弊しているが、日本は人気の旅行先だ。収束後を見据えれば、IRのようなコンテンツにも価値があるのではないか」

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